「正規の就労ができない外国人」対策(茨城県「通報報奨金制度の創設」)に関する意見書 ~通報ではなく相談支援を~

2026年2月27日
認定NPO法人 茨城NPOセンターコモンズ
代表理事 横田 能洋

  1. 通報報奨金制度の創設への危惧と反対
  2. 「正規の就労ができない外国人」が生じる職場の課題の明確化と、真に効果的な改善策の検討を
  3. 外国人就労に関する安心相談窓口(仮称)の設置を

1. 次の理由から、通報報酬制度に反対します。

  • まず当団体は、国際基準に基づき「不法就労」という表現は使用しないこととします。
  • 通報制度の対象は、雇用している職場に限定されているものの、メディアも含め、社会的には外国人個人も通報対象と認識しています。それは「不法就労者数が全国最多」の状況改善が目的であり、入管や県警察は非正規滞在や正規の就労ができない状況の外国人の取締りを強化しているからです。
  • 「不審な外国人を見かけたら通報するのが正しい」という認識が広まれば、正規に就労している大多数の外国籍住民も「常に監視されている」と感じるようになります。「茨城は働きにくい」という認識が広まったり、社会参加に消極的になったり、相互不信を招く恐れがあります。
  • 法務省は、入管法上の公務員の通報義務に関して、必要な行政サービスを行うにあたって、入管への通報が支障になる場合は、通報よりもサービス提供を優先して問題ないとしています(法務省総第1671号、2003年11月17日)。県の通報勧奨により、在留資格の有無にかかわらず利用できるサービス、DV被害や感染症等、緊急を要する支援や人権に関わる支援が届かなくなる恐れがあります。
  • 誤った情報に基づくヘイトスピーチや差別的言動、県民の不安を煽る排外主義的な動きを助長し、地域社会における外国籍住民への偏見を深刻化させかねません。
  • 子どもを含む多くの人々の心に不安や不信感を与え、県民の幸福度向上や共生社会の実現を目指す茨城県の基本方針に逆行する結果を招きかねません。

2. 「正規の就労ができない状況」が生じる職場の課題の明確化とその改善のための取り組みを求めます。

在留資格を失い、非正規滞在となっても諸事情により帰国できない人々や、法令で定められた就労範囲・時間と実態が乖離している人々の現状に関して、多くの県民には正確な情報が共有されていません。ルールを守らない人がいるのは事実ですが、制度や労働現場にも根深い課題があることが見えにくいため、「ルールを守らない一部の外国人」という断片的な認識のみが独り歩きしている現状があります。

    「正規の就労ができない外国人」の具体的な背景
    • 資格外活動の超過:家族滞在や留学生などの就労時間制限(週28時間以内)について、来日時の多額の借金返済のために本人の意思で超過しているケースもあれば、職場側が人手不足などを理由に超過勤務を強要するケースが見受けられます。
    • 指定範囲外の業務:「技能」関連の在留資格の者が、定められた範囲外の業務に従事しているケースがあります。これは本人の希望ではなく、雇い主側の指示によるものが少なくありません。
    • 技能実習生の失踪と保護:多くの技能実習生が毎年職場から失踪し、その一部が茨城県内へ逃れてきています。失踪の背景には、職場でのいじめや雇い止め、監理団体等に相談しても適切に解決されないといった労働問題があります。技能実習制度上、転籍(転職)が極めて困難であり、職場側が手続きに必要な書類を交付しないなどの障壁も存在します。一方で、職場側にも「条件が良い職場を見つけて転職しようとする」「多額の費用を投じて受け入れた実習生に離職されては困る」という切実な事情があり、労使双方のミスマッチを解消する相談体制が極めて脆弱です。
    • 非正規滞在化の悪循環:失踪後、知人宅などを転々とする間に在留期限が切れ、意図せず非正規滞在となるケースや、悪質な転職ブローカーに搾取され、帰国費用すら失い、窮地に追い込まれる事例も後を絶ちません。

    茨城県内で「正規の就労ができない外国人」の検挙件数が多い背景には、農業分野を中心に多くの実習生を受け入れているという土壌があり、上述のような問題が構造的に発生していること、及び全国からの失踪者の受け皿となっていることが推察されます。これは外国人労働者個人の資質の問題に留まらず、不適切な雇用形態に頼らざるを得ない地域産業が抱える構造的な課題と言えます。

    3. 外国人就労に関する安心相談窓口(仮称)の設置

     本問題を根本的に解決するためには、外国人労働者と雇用側の双方が、入管法や技能実習制度の枠組みの中でいかに安心して共に働けるかに関して、真摯に相談できる体制の構築が不可欠です。通報や取り締まりの強化は、現場の当事者が声を上げることを阻害し、職場に潜む構造的な問題の隠蔽を招くだけでなく、本質的な改善を遠ざける結果となります。

     茨城県が推進すべき「外国人の適正雇用」とは、医療・福祉などの行政機関が本来の公的サービスの目的を優先するのと同様に、通報よりも「雇用課題の解決」を優先し、以下のような具体的施策に取り組むべきです。

    • 多言語相談窓口の拡充:労働条件や職場環境に苦慮している外国人労働者が、言語の壁を感じずに相談できる窓口を設置すること。その際、相談者が非正規滞在や正規の就労ができない状態であっても、通報より労働問題の解決を優先することを明文化し、心理的障壁を取り払うこと。
    • 雇用主向け相談支援:外国人労働者との意思疎通や離職リスクなど、外国人雇用に関する悩みを、雇用主側が通報を懸念することなく相談できる体制を整備すること。
    • 非正規滞在の未然防止:失踪の予兆がある段階や、在留期限が切れる前に適切な転職支援等を行い、意図せぬ非正規滞在化を防ぐ相談支援体制を関係機関と連携して構築すること。 
    • 労使双方への包括的支援:相談内容を蓄積・分析し、労働環境の改善や労使紛争の円滑な解決を図るため、有識者を交えた支援の仕組みを検討・実施すること。
    • 国への政策提言:「外国人が安心して生活し働くことができる茨城県」を目標にした取り組みを官民連携で行い、それを踏まえた改善策を次年度施行予定の「育成就労制度」等に対して積極的に提案すること。

    以上

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      主な関連報道一覧(2026年2月28日時点)

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